遠野出身の民話
研究家・佐々木喜善(1886〜1933)は、『遠野物語』を出版した柳田国男に、遠野地方の伝説を語った人である。喜善が収集し、記録した本に『江刺郡昔話』というのがある。『江刺郡昔話』には、「ひょっとこのはじまり」という日本の民俗学において、重要な昔話が収録されている。
この話は「あるところに爺と婆があった。爺は山に柴刈りに往って、大きな穴を一つ見付けた。こんな穴には悪い物が住むものだ。塞いでしまった方がよいと思って、一束の柴をその穴の口に押し込んだ」で始まる。
話の続きをまとめると、こうなる。
■ ■
何度も柴を押し込み、とうとう刈り溜めた柴を全部穴の中に入れてしまった。すると、穴の中から美しい女が出てきて礼を言い、中に来てくれと勧められる。入ってみると、立派な家があり、座敷には白髭の翁がいた。帰るとき、みっともない顔の一人の童を連れて行けと言われた。
家に着いても童は臍ばかりいじっているので、ある日、火箸でちょいと臍を突いて見ると、その臍から金の小粒が出た。爺の家はたちまち富貴長者となった。ところが、欲張りな婆が爺の留守中に童の臍をぐんと突くと、童は死んでしまった。外から戻った爺が悲しんでいると、夢に童が出てきて、「泣くな爺様、俺の顔に似た面を作って毎日よく眼にかかるそこの竃前の柱に懸けておけ。そうすれば家が富み栄える」と教えてくれた。
「この童の名前はヒョウトクと謂った。それゆえにこの土地の村々では今日まで、醜いヒョウトクの面を木や粘土で造って、竃前の釜男(カマオトコ)と言う柱に懸けて置く。所に依ってはまたこれを火男(ヒオトコ)とも竃仏(カマホトケ)とも呼んでいる。」
|
ひょっとこの面(菅野新一作)
佐々木喜善著「江刺郡昔話」と
お菓子の「釜神様」
|