江刺・岩谷堂と西洋舞台芸術の粋「バレエ」とは、一見、全く結びつきがないような気がする。 江刺の風土と、小牧正英という天才ダンサーが江刺から出現した事実とは、何か関係があるのだろうか。 小牧氏の少年期は大正デモクラシーの時代。その頃、繁栄していた岩谷堂は、文芸が盛んな街であり、芸事に優れていることは、尊敬の対象にもなっていたという。 また、江刺地方と周辺の地域では、鹿踊りや鬼剣舞などが古くから伝えられてきていた。その多くの伝統芸能は、今なお継承され、盛んである。小牧バレエ団・現団長の菊池宗氏は、少年時代に伝統芸能を見ていたことが、舞踏芸術に入るきっかけになったのだろうと語る。 「小牧は、かつて鹿踊りや剣舞をモチーフにした創作バレエを演じています。また、とても頑張り屋であることも、ねばり強い東北人らしい。この地方の風土が小牧の芸術を生んだのだと思います」小牧氏が自ら創作した「銀の簪」(3幕6景・グランドオペラ)は、江刺市米里(現・奥州市江刺区米里)を舞台にしており、この作品の第1幕第1景は、「種山高原」である。平成14年(2002)10月26日、小牧バレエ団公演が、新宿文化センターにおいて行われた。 幸運にも私はこの日、公演前に小牧正英氏からお話を伺うことができた。 そのとき小牧氏は、江刺での思い出にふれて、「鹿踊りや剣舞が大好きだ」と話された。ふるさとへの愛情は、相当なものであるように私は感じた。小牧氏は、当時すでに江刺にあったミッション系の幼稚園に通われており、その時、ヨーロッパ的な雰囲気に親しんでいたことも、西洋の芸術を抵抗なく受け入れる要素となったのかもしれない。 小牧正英という天才バレエダンサーが江刺から生まれたことに、何ら不思議はない。江刺は、ずっと「舞踊の郷」なのであるから。
◆創作バレエ「マダレナ」について
平成14年(2002)10月26日、日本・モンゴル国交樹立30周年を記念した小牧バレ団の公演が新宿文化センターにおいて開催された。この日、平成4年(1992)に初演され、大きな反響を呼んだ「マダレナ」の3回目の上演が行われた。「マダレナ」は、小牧バレエ団2代目団長であった故菊池唯夫氏が創作したバレエ。みちのくキリシタンの殉教を題材にしている。初演後、再演を求める声が大きかったものの、そのテーマの重さ、子孫の思いの深さを感じたバレエ団側は、その後の上演はしていなかった。だが、平成11年(1999)に、3代目の団長となった菊池宗氏が改作して再演され、世界地域国際平和賞を受賞した。平成14年(2002)10月、3年ぶりに上演された「マダレナ」は、菊池宗氏が配役としての最後の舞台とした。菊池宗氏は「私の演じます後藤寿庵の仕舞いを天空に届くことを願って、私の最後の奉納舞にしたのです」と述べている。
【みちのくキリシタン マダレナ】
|
|||||||||||||||||